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2026.5.21 カルチャー

日日是ココロユルビ

第13回 わたしの方丈記

小林聡美さんのエッセイを毎月1回お届けしています。

 自分はきれい好きだと思って生きてきたけれど、近頃ふと家の中を見渡すと、もしかしたらそうでもないかも、と思うときがある。いつか読もう、捨てよう、整理しよう、と端っこに寄せている本や紙きれが、いつのまにか雑然と積み上がって埃をかぶっている。生きていればモノは自然に増えるものだが、それを取捨選択する行動力や判断力が思っている以上にトロクサくなっているようなのだ。おまけにどういうわけか一日の経つのが早くて、やる気になったときにはすでに日が傾いている。「家の埃で死ぬことはない」という先人のありがたい言葉を免罪符に、ま、いっか、となる。
 そのいっぽうで、毎日掃除しないと気になって眠れない箇所もある。
 「すべての道はトイレに通ず」といったのは誰だったか。元ネタの格言はもちろん「すべての道はローマに通ず」だ。アプローチはいろいろあれど真理はひとつ、という意味においては、ふたつの格言はかぎりなく近い意味ではないか。しかし単純に字面だけでその事実を考えてみる。そう、確かにすべての道はトイレに通じている。それに気づいたとき、自分が履いている靴のことを考えた。その日自分はその靴を履いてどこへ出かけたか。駅までの道をあるいて、電車に乗ってデパートへ行って、買い物を済ませ、寄り道もせずに家に戻った。出かけてから家に戻るまで外出先のトイレの床を踏むことはなかった。しかしだ。人の行き交う道路、電車、デパートには、間接的にどこかのトイレの床を踏んだ靴跡が無数にあるはず。それらをたくさん踏んで自分の家の玄関に戻ってきたのだ。やっぱりわたしの玄関もどこかのトイレに通じているのだった。そう思うとなんだか胸がざわつく。
 夜、寝る前のほんの数分間、わたしは玄関に這いつくばって三和土を拭いている。拭き上がった後はここで寝転がってもいいくらいの気持ちだ。そしてその日履いた靴をササッと拭いて、一晩風を通してから次の日の朝、下駄箱にしまう。次にトイレも同じく拭き上げて、今日一日健康に過ごせたことをトイレの神さまに手を合わせて感謝し、やっと安心してベッドに入るのである。
 こう書くと部分的にはきれい好きという立証ができるが、それは普段生活するスペースを雑然と放置していることに対する後ろめたさから、せめて方丈に満たない小さなところだけでも、という言い訳なのである。

小林聡美さん

小林聡美

1965年東京生まれ。1982年に「転校生」でスクリーンデビュー。主な出演作にドラマ「団地のふたり」「ペンションメッツァ」「すいか」、映画「かもめ食堂」「紙の月」「ツユクサ」、舞台「24番地の桜の園」「阿修羅のごとく」。主な著書に『茶柱の立つところ』『わたしの、本のある日々』『聡乃学習』。

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