2026.9.24 カルチャー

第16回 旅先でお父さんになる
小林聡美さんのエッセイを毎月1回お届けしています。
中学の同級生五人で年に一度、旅行をしている。今年は高千穂、阿蘇方面へでかけた。その五人のうち一番古い友人は小学二年生からの付き合いだ。しかし古いからといって彼女たちのことをよく知っているかといえばそうでもなく、夫や子供には会ったこともないし、何が趣味で、どんな内容の仕事をしているのかもよく知らない。年に三日ほど会って、ギャーギャー盛り上がるだけだが、家族の次に、いや家族以上に自分自身でいられる場所だ。
そんな彼女たちは、旅先でものすごい量のお土産を買う。道の駅には必ず寄って、米だのお茶だの、ご当地スナックの類もくまなく物色し、職場の人に配る個包装のお菓子をああだこうだと相談し合っている。結婚して家をでた子供や孫、お婿さんの親御さんのお土産まで考えている。誰かが「あ!これ、美味しいのよー」と言えば、「そうなの?」「ほんと?」とワイワイ言いながら同じものを手に取りレジにならび、配送できる生ものなら、みんなで並んで伝票にゴリゴリ宛名を記入している。道の駅に寄るたびに両手にいっぱいの袋を抱えて車に戻る。帰りの荷物が大変なことになるだろうに、と思うが、はじめから買い物を想定しているのだろう、皆、二泊三日なのに一週間くらいのサイズのスーツケースで来ているのだ。
私といえば、目では欲しいものはいくらでもあるのだが、実際買って帰っても、渡す人がいない(会社勤めではない)、ひとりで食べきれない(夫も子供も孫もいない)、と現実的なことを考えてしまって、イマイチ食指がうごかない。スーツケースも誰よりも小さいし、旅先で人のためにお土産を買う、というサービス精神も小さいのかもしれない。とはいえ、その土地でしか食べられない、という珍しいもの、美味しいものは、是非食べてみたい。買って帰れるものならそうしたい。しかし今、アンテナショップは東京のあちこちにあり、喜び勇んで買って帰ったものがそこに売っていたりする。オンラインショップで買えるものもあるかもしれない。それを考えると、どうも乗り気になれないのだ。旅人としては可愛げがないが、実際、物産的に日本列島はかなり狭くなった。
一足先に物色を終えた私は、ソフトクリームを舐めながら、同級生たちがワイワイと買い物をしているのを、外のテラスから眺めている。そんなときの私は「おい、おまえたちいい加減にしなさいよ」と、私のまわりで休憩しているお父さん(リタイアした)と同じ顔をしているに違いない。
小林聡美
1965年東京生まれ。1982年に「転校生」でスクリーンデビュー。主な出演作にドラマ「団地のふたり」「ペンションメッツァ」「すいか」、映画「かもめ食堂」「紙の月」「ツユクサ」、舞台「阿修羅のごとく」「岸辺のアルバム」。主な著書に『茶柱の立つところ』『わたしの、本のある日々』『聡乃学習』。