2025.10.20 カルチャー

第8回 食べる!
小林聡美さんのエッセイを毎月1回お届けしています。
これまでの人生で、体重がマックスにあったのは十九才の頃。その年齢といえば、体型はほぼ大人の完成形に近いというのに、好きな食べ物なんかは子供の時と同じようなもの(甘いものや、ポテトやチキン)だったりするので、放っておくと限りなく重量が増えた。見方によっては
「若々しくていいね」ということなのだが、今の時代よりも“スリムなのが美しい”みたいな風潮があって、時々「ハッ!」と我に返って、甘いものや脂っこいものを控えたりしたものだ。
二十代もそんな感じだったが、三十代になると健康への意識も高まり、日課の犬の散歩もあいまってか、体重を気にすることなく食べてもさほど体重が変わることはなかった。自然に頬の肉も落ちてきて、パンパンだったのが多少シュッとしてきた。それ以降は、食べ物もさっぱりしたものを好むようになり、著しい体重の増減も特になく、健康だった。
ところが、だ。還暦をむかえる直前に体調をくずし、人生で初めて、五日間ほど入院した。
病室の天井を眺めながら、いったいどうしてこんなことになったのか、思い当たる要因を考えてみた。確かに忙しい日々が続いていたこともあったが、もしや栄養が足りなかったのではないか、と推測した。
忙しい日が続くと食事も不規則になり、栄養もかたよりがち。ひとりの食事は適当に済ませてしまうことも多い。若い頃はそれでも、ラクダのコブのようにもともと備わっている養分と、体力があるからいいのだろうが、若い頃と同じようなつもりで、いわゆる、ヘルシーといわれる小洒落たサラダや、軽いスープなどですましていてはいかんのではないかと。体の芯を支えるきちんとした栄養が、これからの私に必要なのではないか。
退院後、私は俄然、食生活の見直しを決行(退院後あるある)。友人に栄養管理アプリを教えてもらって、体重を今より一キロ増量する設定をした。すると、かなりもりもり食べる必要があることが判明。ご飯なんか、こんなに食べていいの?というほどである。なんだか嬉しい。摂取栄養素グラフを見て足りないものはサプリで補う。
「食べたものが自分を作る」といわれている。食べることは、実は本当に大事なことなのだ、とあらためて気づかされた入院体験だった。食事を作るのが面倒な時もあるけれど、きちんと食べることは、仕事や遊びと同じくらい、大事なことなのだ。これからは、もりもり食べて、ぽっちゃり六十代でいきますから!
小林聡美
1965年東京生まれ。1982年に「転校生」でスクリーンデビュー。主な出演作にドラマ「団地のふたり」「ペンションメッツァ」「すいか」、映画「かもめ食堂」「紙の月」「ツユクサ」、舞台「24番地の桜の園」「阿修羅のごとく」。主な著書に『茶柱の立つところ』『わたしの、本のある日々』『聡乃学習』。