2026.7.21 カルチャー

第14回 お茶場のモチベーション
小林聡美さんのエッセイを毎月1回お届けしています。
ドラマや映画、舞台の現場には、通称“お茶場”というオアシスがある。お茶場にはお湯の入ったポットがあって、そこでティーバッグのお茶を淹れたり、ちょっとした飴やスナック菓子をつまんだりできる。夏場には冷たい麦茶の入ったウォータージャグが置かれていたり、予算に余裕のある現場だとコーヒーのポットもある。撮影現場や舞台の稽古場では、そんなお茶場は本当に大切なポイント。煮詰まった時や小腹の空いた時、灯りに誘われる虫のようにふらふらとお茶場に引き寄せられる。
普段のお茶場は、量販店で購入したに違いない袋菓子的なものが並んでいるけれど、時折出演者や現場見舞いに来た関係者のかたからの差し入れがあると、お茶場は俄然輝きを増し、虫たち(働く我々)のモチベーションも一気にあがる。並ばないと買えないお店のお菓子や、お得意さま仕様の特別ないなり寿司など、「どうだっ!」というものが並ぶと、自分たちは何か特別な階級のものではないのか、パンがないならお菓子を食べればいいじゃない、的な錯覚に陥る瞬間もある。しかし、その祭が去り、いつも通りのスナック菓子のお茶場の景色になると「皆のもの調子に乗るなよ」と天からのお声が聞こえるのだった。
昔から、ハリウッド映画のロケでは一人の俳優に一台のモーターホームが控室としてあてがわれ、昼食や夕食にはリッチなキッチンカーが出来立ての料理を提供してくれる、というまことしやかな伝説がある。最近では世界的な配信プラットフォーム製作の作品などでも、そんな感じらしいという噂も。韓国ではファンの人たちがお金を出し合って撮影現場にカフェカーを差し入れする文化もあるとか。伝説や噂ばかりで実際に見たことはないが、もしそれが本当だとしたら、この、超庶民的な日本のお茶場の立場はどうなるのか!
しかし豪華であったらいいか、というとそういうことでもない。我々はお茶場の為に仕事をしているのではない。お茶場はあくまでオアシス。一杯のお茶と、一口の甘いお菓子があれば心が安らぐのだ(でも差し入れはいつでも嬉しい)。そしてお茶場は絶対無くてはならない。
自分が差し入れをする時も、自分がお茶場で口にしたいものを選ぶ。最近は、連日現場で働くスタッフキャストの健康の為に、鉄分グミと3000C×Bを(byHABA)。
思った以上にものすごく喜ばれて、長丁場の現場を皆で、元気に無事に乗り越えることができました!お茶場万歳!
小林聡美
1965年東京生まれ。1982年に「転校生」でスクリーンデビュー。主な出演作にドラマ「団地のふたり」「ペンションメッツァ」「すいか」、映画「かもめ食堂」「紙の月」「ツユクサ」、舞台「阿修羅のごとく」「岸辺のアルバム」。主な著書に『茶柱の立つところ』『わたしの、本のある日々』『聡乃学習』。